10月*日。
東京に、キンモクセイの香りが漂いはじめた。
関東で生まれ育った私にとってキンモクセイの香りは馴染み深く、
この時期特有のちょっとしたさみしさも相まってか、
過去の、淡い青春の思い出やなんかを想起させてくれるものだ。
が、北海道育ちのエスシには
キンモクセイの香りがわからないという。
最初のうちは、この香りと、「キンモクセイ」という名前と、樹の姿が結びつかないのだろうと思っていた。
「ほら、オレンジのちっちゃい花が咲く樹があるでしょ」と説明しながら、そうか確かにうちの近所にはキンモクセイってないか…でも香りはどこからともなく香ってくるんだよなぁ…一致させるの難しいかなあ…
なんて思っていたら、その数年後、目の前のアパートの建て替えとともに新しく植えられたのがキンモクセイだった。
しかし、
「ほら!これがキンモクセイだよ!」と示しても、エスシは怪訝な顔をするのだ。
そして言った、
「北海道には、なかったよ」。
…え?
そんなことある?
キンモクセイがない地域って、あるの??
ていうか、百歩譲って本当に北海道にはキンモクセイが無いのだとしても、
この香りがわからないなんてことある??
エスシ個人の嗅覚の問題なのでは?
いや、もしかして、嗅覚の発達って子どもの頃の環境に左右される??(憶測)
親しんでこなかった香りは、大人になってからは感知できないとか??(憶測)
で、今ググってみたところ、
キンモクセイの北限は東北あたりで、北海道にはないみたいです。
本当だったのか。ごめん。
(でも、「キンモクセイの香りがわからない」というのは
どうもエスシの個人的なもののようだな…)
**
ということは。
私がキンモクセイの香りで秋の深まりを知るのは
今年が最後なのか。
ちょっと考えられないな。
わたし、キンモクセイ好きなのにな。
寂しいな。
秋にキンモクセイの香らない土地に移住する。
それを嘆くほど私は風流な人間ではないけれど、
今まで当たり前だった「キンモクセイの香りイコール秋の深まりの合図」が
当たり前ではなくなることの、実感が湧かない。
でも、来年の今頃に、「ああ、今年はキンモクセイの香りがないな」なんて気づけるのだろうか。
無いものに気づける自信はない。