1月*日
傘を作る
ふとしたきっかけで
いまの職場の近くに
傘の専門店があると知り
東京にいるうちに
傘を作りたいと思ったのだ
雨傘である。
以前からビニール傘はあまり好きではなく
布(ではないのだろうが)の傘を慎重に選んで買うようにしていた。
といっても、雑貨屋さんの片隅で売られているような
2,3000円程度のささやかなものだ。
それでも気に入ったものを探して
何軒も何軒も歩き回ってじっくり選んだものを
毎回買っていたのだけれど
残念ながら盗まれてしまったり
扉にひっかかって骨を折ってしまったりして
買い替えてきていた。
今使っている傘は、たぶん10年近く前に買ったもので
うっかり玄関のドアに挟んで歪んでしまったし
持ち手の表面がボロボロと落ちてきてしまっているので
さすがにそろそろ買い替え時かなと
思っていたさなかに、
傘専門店という、魅惑の響きを知ったのだった。
そのお店は、東京ノーブルという。
平日の昼間に訪れたので
私の他に客はおらず
じっくりと店員さんの説明を聞き
ゆっくりと傘を選ぶことができた。
悩みぬいて柄を決め
悩みぬいて持ち手の色と長さを決め
悩みぬいてタッセルの色を決めた。
カスタマイズの作業を数十分待てば
すぐに持ち帰ることができたのだけど
あいにく次の予定の時刻が迫っていて
後日受け取りに来ることにして、いったん帰宅。
受け取りの日、いそいそとお店に赴くと
そこには私の選んだ柄の、私の選んだ色と長さの持ち手の、私の選んだ色のタッセルがついた
圧倒的に可愛く、圧倒的に上品で、圧倒的にチャーミングな
今まで見たこともない傘が完成していた。
わ…!!
鼓動が高まる。瞳孔がひらく。
こんなに素敵な傘がこの世に存在するとは…!!
私はうきうきで受け取り
「大切にします!」と店員さんにお礼を伝え
大事にその傘を持ち帰った。
北海道に行ってから、使うんだ。
**
今回の引っ越しでは、私とエスシは少しずつ夢を叶えることが目標でもある。
北海道移住、ということがそもそも夢のひとつだったわけだけど
その他にも
例えば
中古でもいいから車を持ちたいね、とか
あの洗濯機を使ってみたいね、とか
いつか猫と暮らしたいね、とか
野球いっぱい見たいね、とか。
背伸びしすぎない、ちょっとだけ贅沢な
私たちがハッピーになる夢を
少しずつ叶えていきたくて、
その夢のなかに「ちょっといいものを持つ」というのも含まれていた。
贅沢品とまでは呼べない・呼ばないけれど
「ちょっといいもの」を、大事に長く使うような生活をしたいという夢。
たぶん私、この夢ずっと前から持ってた。
でも今までは、いろんな障壁やいろんな言い訳があって出来なかったから、
じゃあ今から、叶えようじゃないか。
と思って作った、傘。
大事にしよう。